研究トピックス

work A病態を多角的に解析する:
複雑な病変組織要素の分画と統合

 我々の研究室では、ヒト病理検体や疾患モデル動物試料の形態学的評価 の一つとして、組織要素の多元解析を進めています。病変に含まれる各種 要素を分画することにより標的分子の空間分布を端的に捉えることができ、 関連する分子発現情報を統合することによってその重なりに基づいた表現型 分類が可能になります。連続切片からの立体構築技術を組み合わせることに よって分子局在について視覚的に理解しやすくなるとともに、対象要素の 表面積、堆積、距離などの3次元形態計測値を得ることができます。これら の解析法を用いて病変がもつ多面的な性格を一つずつ抽出しながら病態の 解明を目指しています。

Work A2-1 口腔癌の細胞表現型

例1 口腔癌の細胞表現型

 ヒト舌扁平上皮癌症例におけるHE染色像(上)と多重免疫染色解析(下)。 癌組織の特徴を捉える目的で上皮細胞マーカーのサイトケラチン、 E-カドヘリンに加え、細胞増殖マーカー(Ki-67)やp53分子、間質組織に 局在する血管(CD31/CD34)、リンパ管(D2-40)について免疫染色を 施しました。陽性領域を同時表示することによって健常部を含めた 癌病巣全体(この試料では幅約3cm)の特徴を把握することができます。

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Work A2-2 癌胞巣周囲の血管・リンパ管網

例2 癌胞巣周囲の血管・リンパ管網

 ヒト舌扁平上皮癌の浸潤先端部を組織アレイヤーで直径3mmに打ち抜き、 連続切片を作製、腫瘍実質(サイトケラチン;ピンク)と間質空間の血管 (CD31;赤)・リンパ管(D2-40;黄)の免疫染色像から立体構築しました 。この3次元解析によって母体となる腫瘍塊から離散した微小な孤立癌胞巣 や脈管に接触・浸潤する癌細胞集団を捉えることができます。

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Work A2-3 マウス顎顔面形成時の神経・血管網の構築

例3 マウス顎顔面形成時の神経・血管網の構築

 胎生日齢E10.5~E11.5におけるマウス顎顔面領域の神経軸索 (PGP9.5/GAP43;黄[E10.5のみ])と血管走行(PECAM1;赤)を 立体表示しています。複雑な組織形態変化を遂げる初期発生段階で 構築される神経と血管との相互作用を解析しています。

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 これらの画像解析では以下に挙げる実験手法の連携が 基盤となっています。

均質な薄切切片の作製 回転式ミクロトーム+ セクショントランスファーシステム(Microm)を用いて200~ 600枚の連続薄切標本(4μm厚)を作製します。連続組織標本を 薄切順に方位を揃えてシランコーティングされたスライド グラスに配列(9連続切片×3列)することにより、後の 免疫染色操作とバーチャルスライドによるデジタル記録を 短時間に効率的に遂行できます。ヒト病理検体などの大きな 標本から安定した連続切片を得るために自動薄切装置(クラボウ ASシリーズなど)が開発されています。

同一切片への多重免疫染色 対象分子の組み合わせや 染色順序については、タンパク分子の組織局在パターン(細胞膜、核など) 、抗体の免疫動物種・特異性、発色剤との相性などを検証して 決定します。多重染色では、各組織要素を色調で分別できるよう、 Vector blue(青色)、DAB(茶色)など複数の発色剤を組み合わせ、 各染色が終わった段階で仮封入してバーチャルスライド(浜松ホトニクス)により画像を 取得します。水溶性発色剤では色素が消去できるため、 次の免疫染色に再使用が可能です。

画像演算処理 バーチャルスライドにより得られた 高画質のデジタル情報から免疫染色の陽性反応領域を発色剤の 色調に基づいて抽出します。連続切片の場合、切片間の陽性領域 を位置合わせしてPC上で3次元的に再構築できます。我々の研究室 では、NIH提供のフリーウェアImageJとプラグインを組み合わせて これらの画像処理を短時間で実施できるようなプロトコルを 作成しています。TRI-SRF2(ラトック社)やVG Studio(日本ビジュアル サイエンス社)などの市販ソフトウェアを導入することで、 この立体情報に多彩な要素を組み込み、3次元空間での形態計測値 を得るためのより高度な作業が可能になります。

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