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日本歯科大学図書館所蔵書より(第十三報)

 〜井上通夫先生の解剖学講義録(内臓学)〜

 

鹿児島大学名誉教授

日本歯科大学客員教授

島田 和幸

 

  今回は東京大学を退官後、昭和26年5月より昭和34年6月まで本学教授として解剖学(発生学)を担当されていた井上通夫先生の講義録について紹介する。井上先生は明治12年2月に笠井与三平の三男として徳島に生まれ、井上達世の養子になられて井上姓となられた。明治36年東京帝国大学医科大学を卒業後、解剖学教室に入局され明治39年からドイツ、フランス諸国に留学された後、大澤岳太郎教授の後任として大正10年に解剖学の教授に就任された。井上先生の主たる研究分野は発生学でその中でも特に口蓋、兎唇、狼咽、顔面の形成研究であり、それらの研究成果は世界的にも高く評価され、当時の著名な解剖学教科書や発生学の書に引用されている。しかしこの様な著明な先生であるが先生による解剖学教科書書や発生学書についての単著は出版されていないことが判明した。ただ、全国の公共図書館を調査してみると3冊の先生の講義録が現存していることが判明した。その一冊が本学生命歯学部図書館に所蔵されていたのでその一冊について紹介する。

 紹介する書は、外表紙のタイトルには『SPLANCHNOLOGIE』VON PROF. DR. INOUEと記載されていて、目次タイトルは『井上解剖學』となっている。本書の出版は最後のページに印刷所文精社 神田区駿河台二ノ六と出版社の住所が記されている以外は定価などは記されていない。出版年は表紙に1934と記されていることから昭和9年であると考えられる。記載は手書きのガリ版印刷であり、本書の大きさは縦×横220×145oで全264ページよりなっている。記載内容は大きく前部と後部の二部に分けられており、前部は内臓学(消化器・呼吸器系)で後部は泌尿生殖器系についての記載である。記載形式は解剖名はすべてはじめにドイツ語名が記され、次に日本名が記されている。前章は消化器系の概論に始まり、第一章として口及び口腔、咽頭、食道、胃、腸、肝臓、膵臓、脾臓の8項目について解説とその解説に付随した解剖図が記されている。第二章は呼吸器系で喉頭、気管、気管支、肺について記されており、後部始めの第一章は泌尿器、腎臓、膀胱、副腎が記されている。第二章は生殖器系でまず始めに男性生殖器及びその付属器が解説されており、同様に女性生殖器とその付属器が解説されている。そして最後は腹膜についての解説がなされている。全般的に本書は簡潔な解説とわかりやすい解剖図によってまとめられている講義録である。おそらく井上先生が東京大学から日本歯科医学専門学校に講義に来られて講義された内容を当時の学生がまとめて一冊にしたためた書ではないかと推察される。

講義録や講義ノ−ト類の多くは後世になかなか残りにくい中で全国の公共図書館で三冊しか所蔵されていない貴重書の一冊でもあり、また当時の井上教授の講義内容を知るうえでも重要な一冊と考えて今回紹介しておく。

*図書整理番号(配架場所 地下2階):

  ・Splanchnologie 井上解剖学 QS..4/I 57/35069

(2017.1.25up)

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