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日本歯科大学図書館所蔵書より(第二報)

〜山崎清著の『軍陣歯科学』について〜

 

鹿児島大学名誉教授

日本歯科大学客員教授

島田 和幸

 

 今年は戦後70年の年にあたり、社会では憲法問題等で色々とニュースとして話題に成っている時期である。私は解剖学とりわけ肉眼解剖学を専門としている関係からついつい解剖学関係の書や著者に目が止まる。今回も図書館で紹介する図書を調べていたところ本学の解剖学教授であられた「顔」に関する多くの著書を出版されている山崎清先生の書に目が止まった。それらの山崎先生の著書の中で、今回はその解剖学とは異なる分野である『軍陣歯科学』について紹介をする。

 山崎清先生はフランスに留学されていてフランス語に卓越された方でありフランス語の文献を多く引用した『顔の人類学』でも著名な研究者である。今回紹介する書はこれらの顔に関する書とは異なる分野である外科学の書である。

『軍陣歯科学』は昭和12年(1937)12月5日に金原出版から出版されていてその最初の序はフランス語で書かれている。さらにフランス陸軍軍医として従軍された経験のある中原實先生による軍陣歯科学の意義についてが述べられている。紹介する書の記載内容であるがまず軍陣歯科学の歴史的な概要が述べられている。第一編は一般論としての、兵器、戦陣に於ける顎顔面損傷処置の順序、顎顔面の病院での処置、損傷の起因、顎骨骨折の症状が述べられている。第二編では、下顎骨折についての分類、形状、部位、診査と診断、臨床的形状、経過、処置、実質欠損による下顎骨折の固定法、固定裝置、器械的固定、偽関節の症状、処置、補綴処置、顎間緊急の種類、処置などが述べられ、第三編においては実質欠損を伴わない上顎骨折、実質欠損を伴う骨折についての処置方法が述べられ、第四編では顔面損傷として口腔内、口唇、外頬部、鼻部が述べられ、また鼻、耳、眼瞼部、舌についての顔面修復補綴が記載されている。これらの記載内容は当時の医療技術や使用器材等はかなり変化はしてきているものの現在で言えば事故や腫瘍により生じた顎顔面部位の欠損に行う顎顔面修復補綴や形成外科の分野での手術に相当する内容である。

 当時は、銃弾や爆弾による顔面損傷により戦場では多くの軍人が頭部顔面に負傷を負ったためにこの様な学問が時に欧州を中心に発展していたもので、日本ではまだこの様な学問が職業軍医を養生する軍医学校以外の学校では開講されていなかったことから当時の時代状況を反映してすでに歯科医学教育の中に中原先生によりいち早く導入されたのは意義深いことでもある。本書よりその当時の医療技術、医療機材や術式等を知るうえからも今回紹介した書は歯科教育の歴史的な観点からも貴重な一冊の書と考えて紹介した。

*図書整理番号: D.31/YK/W1261・W1262 地下2階貴重書

(2015.8.21up)

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