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日本歯科大学図書館所蔵書より(第一報)

 

鹿児島大学名誉教授

日本歯科大学客員教授

島田 和幸

 

  今回は所蔵されている中の一冊として、オスカー・アーメド(OSCAR  AMOËDO)の著書である“L’ART DENTAIRE EN MÉDECINE LÉGALE”について紹介する(図、著者より中原實氏に寄贈されたサインが記載)。著者のAMOËDOはキューバ人であり、フランスのパリに移住して歯科医をしていた。そして1898年にパリ大学医学部に博士を得るためにテーシスとしてまとめたのが本書である。当時はヨーロッパでは戦争が各地で行われていたために歯科領域においても法医学の知識の必要性が高かった頃である。なお本書は1898年にフランスのパリの医書出版社であるMASSONより出版された大冊である。本書の内容は歯牙解剖から始まり全てで十四章だてで記載されている。今回はその中の始めの章に記載されているNomenclature d’anatomie dentaire(歯牙解剖用語)の項目である。この項目は当時の日本では歯牙に関する用語がまだ普及されていなかった。そこで東京歯科醫学院での歯科法医学の講義を行っていた野口英世によりこのアーメドの歯科(牙)用語が翻訳され講義されたことである。野口が法医学の講義の中の一部といえ解剖学の一分野である“歯牙解剖學”の教育に関与していたという事実については野口に関する多くの書の中でもほとんど記載されていないし、あまり知られていない事項であり、口腔解剖学の教育・研究に関係する者としては興味があるところである。なお参考までに“歯牙解剖學”に関係する書について国立国会図書館で調査を行ったところ明治24年(1891)4月に丸善より出版されたハーリス原著・小島原康編訳の『歯牙形態學』が我が国で最初に出版されていて近代デジタルライブラリーによりその内容を調査することができる。それによるとこの書は口腔及びその周囲の構造に関する一般的な解剖学が中心で歯牙に関しての詳細及び歯牙形態の独特な用語についての記載は全くふれていない。以上のことからも野口が歯牙の形態に関する用語を外国語から日本語へ翻訳した最初であると考えられる。さらに本書の出版後に解剖用語集が明治38年(1905)12月に鈴木文太郎により東京丸善株式会社より『解剖學名彙 全』(ドイツのバーゼルで国際用語の統一がなされBasle Momina Anatomicaと名付けられた)として出版されているが歯の形態に関係する事項については記載されていないことからも歯の形態を述べる際の歯牙解剖用語は野口が我が国における最初の日本語による歯牙用語作成者である。このことは奥村(1939)の著書の中で“野口英世が口述のために訳した用語がその後の歯牙又は歯の解剖学の用語として現在にまで引き継がれてきている”と述べていることからも明らかである。以上のことからも歯の形態を述べる際の用語は野口が最初の作成者ということができる。したがってアーメドの書は現在の歯牙用語の原本書として歴史的にも貴重な書でありその書が本学図書館で所蔵されていることは意義深い。

 

*図書整理番号: D.17/A523/F848 地下2階貴重書

(2015.6.1up)

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