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隙間のハナシ

 

  接着歯科学講座 准教授  柵木寿男

 御承知のように、日本歯科大学は1907年に千代田区大手町にて創立され、1909年に現在の千代田区冨士見の地に移転を行いました。近代日本の幕開けである明治維新は1868年ですが、その頃の近隣での出来事としては、靖国神社創建(1869年)、東京大神宮創建(1880年)、法政大学創立(1880年駿河台にて、九段に引越は1890年)、東京理科大学創立(1881年、神楽坂に引越は1906年)、東京女子医科大学創立(1900年、河田町に引越は1903年)などが挙げられます。鉄道の駅はというと、現在のJRの前身のひとつである甲武鉄道が1894年に牛込駅、翌年に飯田町駅を開業し、後の1928年に両者が合併することによって飯田橋駅が開業するという複雑な経緯がありました。その後100年近くが過ぎ、飯田橋は甲武鉄道から日本国有鉄道を経たJR東日本中央線、帝都高速度交通営団地下鉄を経た東京メトロ東西線・有楽町線、東京都営地下鉄大江戸線と多数の鉄道が行き交う街となりました。

1) 飯田橋駅の急曲線

 そのJR飯田橋駅が近年中に大きく変わろうとしています。日頃多くの方が利用しているJR東日本飯田橋駅に、ホームと車輛との間の「隙間」があることを御存知でしょうか?。設計上、ホームが半径300メートルの急曲線区間をしており1)(写真1)、車輛との間に広い「隙間」が生じてしまうのです。そのために、毎日通学・通勤で利用している方は慣れているのでしょうが、従来より転落事故等が問題となっていました。そこで、JR東日本はプラットホームを約200メートル程西側に移設して、抜本的な安全対策を図る計画を発表しました。併せて、西口駅舎の改良と千代田区と連携しての駅前広場整備を行うそうです。加えて、西口駅舎が改良されることによって、日本歯科大学附属病院との距離=「隙間」も少なくなることが期待できますので、楽しみですね。

2)  牛込見附趾の石垣

ところで、その飯田橋駅西口前交差点には堂々たる立派な石垣が目に映ります(写真2)。

これは「江戸城」外濠、牛込見附趾なのです。江戸城の石垣には、現在の静岡県東伊豆や真鶴で産出される火成岩の一種である安山岩が用いられており、この牛込見附は阿波徳島の大名家である蜂須賀家が1636年に建設したとされています2)。クレーンやショベルカーなど土木工事用重機がない400年近くも前の時代に、「隙間」がないように石を積む技術が既に存在しており、当時としては最高度の素晴らしい工夫がなされているといわれています。

3) 齲蝕による歯の破折

 一方、歯科においては「隙間」は大きな困りごととなります。歯と歯の間の「隙間」、歯と修復物や補綴物との間の「隙間」、齲蝕によって生じた「隙間」(写真3)。これらはそれ自体が歯科疾患であるばかりか、他の歯科疾患の原因となってしまうことが多いので、適切な対応が必要となります。従来、歯科では金合金を代表とする金属製修復物が頻用されていましたが、幾多の先人達の努力により、歯科精密鋳造技術は「μm」単位の精度を実現できるようになっていました3)。現代では審美的治療のニーズに応えるため、セラミックスなどのメタルフリー修復物が臨床応用されています。デジタルデンティストリーによる技術的進化は著しく、最新のCAD/CAMテクノロジーの適用により、金属製に匹敵する高い精度でのメタルフリー修復物製作が可能となっています4)

4) 図書館書棚の空きスペース

 さて、日本歯科大学生命歯学部図書館は2006年に改修後の新規運用が始まり、2015年春現在、蔵書は約13万冊を備えています。当然のことながら、新刊図書・学術雑誌、各種報告書、学位論文などが数多く毎年発刊されていきますが、これらを大切に保管していくことも図書館業務として求められています。その備えのひとつとして、例えば図書館地下2階の書庫には、未使用の書棚や空きスペースが用意されています(写真4)。このように、良い「隙間」の存在は大変重要となります。

これらのように「隙間」は、困りごととなってしまう側面もありますが、人に役立つ「隙間」もありますし、ニッチ産業のように世の中に必要となる場合も多々あります。時々は身の回りの「隙間」に、少しだけ目を向けてみてください。

 

参考

1)  東日本旅客鉄道株式会社 JR中央線飯田橋駅ホームにおける抜本的な安全対策の着手について, 東日本旅客鉄道株式会社ホームページ

2)  日比谷図書文化館 千代田区の文化財, 指定文化財資料 「阿波守内」銘の石垣石, 日比谷図書文化館ホームページ

3)  鋳造修復, 総山孝雄, 永末書店, 326, 1974.[図書館所蔵 請求番号 D.42/FT 100005572]

4)  レジンコーティングがCAD/CAMセラミックアンレー修復の窩洞適合性に及ぼす影響: 前野雅彦, 山田 正, 中村昇司, 柵木寿男, 奈良陽一郎, 日本歯科保存学会第138回春季学術大会プログラムおよび講演抄録集 p.72, 2013.

 

 

(2015.2.17up)

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