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生命科学への道 −エイブリー教授とDNA−

 

  微生物学教授  古西 清司

  30年ほど昔に読んで感激し、最近読み直して感激を新たにした本について紹介したいと思います。その本とは、「生命科学への道 −エイブリー教授とDNA−」 (岩波書店、ルネ・J・デュボス 著、柳沢嘉一郎 訳; 原題は"The Professor, The Institute, and DNA")で、1979年に岩波書店より刊行されました。この中では、大器晩成の、そして教授になる前から「ザ・プロフェッサー」(あるいは縮めて「フェス(Fess)」)の愛称でよばれたオズワルド・T・ エイブリーの伝記を、本人の弟子であり、すぐれた細菌学者で名文家のデュボスが執筆しています。エイブリーという研究者の名前は、生物学、生化学、細菌学、分子生物学の教科書などに必ずグリフィスの名前と伴に出てきて、DNAが遺伝物質であることを証明したことで取り上げられるので、ご存じの方も多いかと思いますが、その人となりまでご存じの方はほとんどいないかと思います。また、ノーベル賞を当然受賞すべきであったにもかかわらず受賞できなかった代表として常に名前の挙がる研究者でもあります。

Avery教授の肖像

(Wikipediaより)

  1877年カナダ生まれのエイブリーは、36歳の時に有名なロックフェラー研究所に移るまで、専攻の細菌学の分野でほとんど見るべき研究をしておりませんが、その3年後から見違えるような大発見を幾つもしております。そして1944年の67歳の時に「肺炎レンサ球菌の形質転換は遺伝子であるDNAによっている」と証明したのです。その3年後に研究所を引退するまで、自ら試験管を振り続け、哲学者のカント的な規則正く、研究以外のことはほとんど行わない禁欲的(一生独身でした)生活を送りました。世界の多くの国から賞が贈られましたが、研究に没頭したいが為、辞退するか、受賞したとしても授賞式には一切出席しなかったという事実でもその研究に対する尋常ならざる思い、献身ぶりがうかがえると思います。以上、凡人には及びも付かない偉大な研究者についての本の紹介でした。

(2013.1.31up)

 

         

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