医学図書館員として働きながら、また現在は大学教員として、論文や著書を発表してきた。これらの論文や著書は、問題を発見したいという持続の結果ともいえる。問題の解決は、その発見(定式化)なくして実行することはできない。何が問題なのかを、印象でなく、データをもとに表現できるかがポイントである。実務家として、医学情報サービスに関わる皆さんは、多くの問題と日々出会うであろう。それらは、これまでの文献や経験のなかに解決の糸口を見出せるかもしれない。伝統的な社会において、蓄積され繰り返されてきた技術や知識を、徒弟修業を通して受け継ぐことで、システムを維持してきた。このような社会において、経験主義は問題解決のための有力な方法になりえた。しかし、急激な時代や技術環境の変化にあって、これまで経験したことのない未知の問題が発生する。目の前で遭遇した新しい問題は、その問題に気づいた人自身による解決を待っているのではないだろうか。問題の定式化・明確化を行うなかで、私たちは新しい解決のヒントを見出せる。特に、実証的なデータにもとづいた成果は、比較し、追体験(追試)し、実際のサービスに応用し、さらに発展させることが可能である。自験例を、過去に発表された論文や同時代の海外事例と比較し、共通の課題を見つけたり、体験した事例のユニークさに気づいたり、そして自分たちの結論や方向性を強化できるかもしれない。これらのことが可能なのは、発表が存在するからであり、リサーチの成果は公表し、同じ専門職の世界で共有する必要がある。近代的な専門職の世界は、秘事口伝でなく、書き言葉で表現し、伝達し、知識やスキルを共有し、等質のサービスを展開するものである。

 研究者がリサーチを自分の一生の仕事として位置づけられるのは、なによりもそれが「interesting」であるからだ。同様に、専門的職業人にとっても、リサーチは必須なスキルであり、おもしろさ(interesting)に満ちた世界であろう。静かな喜びをもって働くために、リサーチをし、その結果を発表していくことは、研究者だけが行う行為ではなく、実務家においても必要なものである。私の好きな言葉に「wandering scholar (旅する学者)」がある。中世ヨーロッパで、学者は旅をしていた。彼らは、各地に点在していた修道院や大学を訪問し、写本を閲覧し同学の人々と情報交換をしていた。旅による方法は、時間とエネルギーのかかるものであり時代遅れと考える人もいるかもしれないが、電子メールとインターネットによる時代であっても、その重要性を失ってはいない。職人が自分の道具を持ち、仕事を求めてヨーロッパ各地を遍歴しながら自由に生きていくように、学者は「スキルやアート」を手に世界を歩き、未知の土地の空気をすい、食事をし、同学の士と語り合い、新しい気づきを得る。研究発表を持続していくことは、さまざまな問題解決へ踏み込めるだけでなく、新しい同僚を発見し、ともに学びあえるチャンスとなるだろう。それは、生きていく喜びのひとつになり、国籍・肩書き・地位・性による違いをこえて同等な人間関係を結べる専門職の世界にふさわしい。

 1988年、バーゼルで開催されたヨーロッパ科学編集者会議で、はじめての国際会議発表を行った。この夕食会はサフランという名のレストランであったが、中世以来サフランを扱うギルド(商工業者の専門団体)の宿舎であった。チーズフォンデュを囲みながら、ここに参加した人々は、科学情報流通にかかわる同業(ギルド)であり、仲間なのだと思った。人々は、情報交換をし、お互い同士学びあい、今後の動向を探ろうとしていた。そして、何よりも共通の話題を楽しんでいた。研究発表を通して、自分の狭い職場をこえ、国境をこえ、コミュニケートできることは、専門職として働く喜びであろう。また、相手から多くを学ぶための方法は、できるだけ多く相手に与えることである。リサーチを通し、新しい知見を産み出し、サービスやシステムの改良に努めることは、私たちの責務である。